仕事の関係でオーストラリアのシドニーには何度も行きましたが、そこでの仕事上の付き合いから、何人かのオーストラリア人とは今でも交流が続いています。
それでもその中の一人の男性とは、初めての出会いの時に口論になりそうな出来事がありました。
「なりそう」で留まった理由は、幸か不幸か当時は未だ口論できる程の英語力が無かったからです。
ことの始めは彼が「日本人は何故イルカを食べるのだ」と尋ねたことです。
そこで私は「オーストラリア人がオージービーフを食べるのと同じでしょう」と答えたのです。
すると彼は「牛は人間に食べられるために生れて来た動物だがイルカは違う」と言い出したのです。
そしてイルカやクジラを食べる日本人は理解出来ないと続けたので、私もカンガルーをも食べるオーストラリア人が理解出来ない、とそこまでは言い返したのです。
ところがその後の捕鯨に関する会話では言葉が詰まってしまい、口論とまではいかなかったので、結果的には良かったのかも知れません。
そんな彼は寿司が大好きとのことでしたので、その日何人かの仲間達と共にシドニーの或る寿司屋さんに行きました。
そしてそこで彼の大好物が海老であることを知ったので、私が皮肉を込めて「海老も食べられるために生まれてきたのでしょうね」と言うと彼は「勿論!」と言ってウィンクをしたのです。
何と身勝手な言い分をする奴だとは思ったのですが、そこでは笑って済ませ、或ることを思いついたのです。
それは彼が今度日本に来た時に何等かのリターンマッチをしてやろうとの企みでした。
数ヶ月後に彼は出張で日本に来ました。
そして私の企みを実行する時が来ました。「東京の寿司屋さんで大好物の海老を」と彼を誘い、カウンター席で海老三昧を堪能してもらったところ、彼は「やはり日本の寿司は最高だ!」と大喜びでした。
そこで私は板さんにメニューの中の一品を指差し、或るネタを注文したのです。
そうです、それはクジラの握りです。
彼はそれを食べ、「何ですかこれは、すごく旨い!」と言ったのです。
私はその時それが何であるかを言わず、彼が帰国した後にメールで知らせたのです。
すると彼からの返信は「他のオーストラリア人には言えないけど、クジラもやはり食べられるために生まれてきたのだね、また食べたいな」と・・・
何とも身勝手なことを言うそのオーストラリア人との付き合いは今も続いています。